R3予備論文 商法


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~感想~

・68分かかった。推定C

・最初、ちらっと問題見た感想としては、簡単だなと感じたが、しっかり読み始めてから難しくて混乱した。設問1と退職慰労金の典型論点が勝負だと思ったので、そこは丁寧に検討したつもり。本問の特殊事情をしっかり検討できたかというとそれは疑問。

~再現答案~

第1 設問1

1 乙社が、甲社に対して本件代金を請求できるためには、甲社を代表してしたCの行為が、甲社に帰属している必要がある。

  本件で、Cは甲社の代表取締役会社法(以下法令省略)349条4項)ではなく、甲社から代表権を与えられていないので、無権代理行為(民法113条1項)として、Cの行為は甲社に帰属しないのが原則である。

2 もっとも、乙社は、取引基本契約の際、Cは、契約書に「代表取締役副社長C」と記名してFに代表者印を押印させており、これにより、乙社の代表取締役はCを甲社の代表者と信じているから、Cは表見代表取締役(354条)に当たり、Cの行為が甲社に帰属すると主張する。

⑴ まず、同条の趣旨は、会社の犠牲の下に外観を信頼した第三者を保護するという権利外観法理にあるところ、「会社を代表する権限を有するものと認められる名称」は、第三者からみて会社の代表者と信じるに足りる程度の外観を備えている必要がある。

  本件では、Cは、自ら「代表者取締役副社長」と名乗って取引先と交渉しており、取引基本契約の際も、契約書に「代表取締役副社長C」と記名してFに指示して代表者印までも押印させているから、Cの名称は第三者からみて会社の代表者と信じるに足りる程度の外観を備えていたといえ、「会社を代表する権限を有するものと認められる名称」に当たる。

⑵ 「付した」とは、上記趣旨から、会社が明示的に付した場合のみならず、黙示的に付した場合も含まれると考える。

  本件で、Cは、Aと相談して了承を得た上で、Cを代表取締役に選定する臨時株主総会決議があったものとして株式総会議事録を作成し、Cを代表取締役に追加する旨の登記申請をし、その旨登記された。たしかに、これらCの一連の行動を、Bら他の取締役が察知することはなかったのであるから、BC間で度々経営戦略について対立していた事情を考慮すれば、甲社代表取締役であるBはCに代表権を付するとは考えられず、「付した」に当たらないとも思える。しかし、Cのかかる一連の行動についてAは承諾しており、Aは甲社株式を800株も保有している大株主であるから、Aを「株式会社」と同視することができ、甲社は上記名称を「付した」といえる。

⑶ 重過失は悪意と同視できるといえるから、「善意」とは善意無重過失をいうと考える。

  本件で、乙社の代表取締役は、甲社の代表取締役副社長として振る舞うCを信頼しており、さらに、上記のとおりCが代表取締役として行動し、代表取締役として登記もしていたという状況を鑑みると、上記のように信頼するのもやむを得ず、Cに甲社の代表権があると信じるにつき重過失もない。

3 以上より、Cは表見代表取締役(354条)に当たり、Cの行為が甲社に帰属するので、乙社は、甲社に対して、本件代金を請求することができる。

第2 設問2

1 甲社のBに対する本件慰労金の支給は無効であり、甲社は、原状回復請求(民法121条の2第1項類推適用)として、本件慰労金の返還を請求することが考えられる。

⑴ 本件慰労金退職慰労金であるが、「報酬等」(361条1項柱書)に当たるか。

ア 同条の趣旨は、お手盛りによる会社財産の流出を防止する点にあるところ、退職慰労金は、報酬の後払的性格を有するので、お手盛りに準じた弊害があるといえる。

  そこで、退職慰労金も「報酬等」に含まれると考える。

イ したがって、本件慰労金は「報酬等」に当たるので、株主総会決議(309条1項)が必要である。

⑵ もっとも、本件では、甲社のBに対する本件慰労金の支給に際して、上記決議を行わないでなされている。そこで、総会決議を欠く報酬の支給が無効とならないか。

ア そもそも、報酬等の支給に際して株主総会決議を要するのは、前述のように、会社財産の流出を防止し、報酬等の適正を会社所有者である株主に判断させる点にある。また、かかる決議を欠いた場合の規定は会社法上存在しない。そうだとすれば、かかる決議を欠く報酬等の支給は、民法の一般規定に従い、無効とするべきと考える。

イ したがって、本件慰労金の支給は無効であり、上記返還請求は認められ得る。

2 しかし、Bはかかる請求を拒むために、甲社の無効主張は信義則に反すると主張することが考えられる。

⑴ 本件慰労金は、本件内規に基づいて行われているところ、たしかに前述のとおり、支給に際して総会決議を経ていない。しかし、本件慰労金の支給は甲社株式を過半数以上持ったAの依頼に基づいてなされているから、総会決議を経たとしても、承認されることが明白である。そのため、重大な瑕疵とはいえず、上記支給は無効とはならないといえる。

  また、CはAの所持していた甲社株式をすべて相続して、上記支給を追認拒絶している。しかし、BとCは関係が悪化しており、対立関係にあったことを鑑みると、Cの追認拒絶は、Bに対する嫌がらせのために行ったと推認することができ、信義に反する形であったといえる。なお、乙は甲社株式を900株保有しているから、乙は甲社と同視できる。

⑵ よって、甲社の無効主張は、信義則に反するのでBの上記反論は認められ、本件慰労金の返還請求は認められない。